交通で見る夢 〜40年にわたる技術予想からみえること〜
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永野 博:政索研究大学院大学前教授
20世紀に入る1901年に、当時の報知新聞が新たな世紀に何が実現するかを予想した23項目からなる「20世紀の預言」がよく知られている。それによれば、5項目が交通に関連
していて、例えば世界一周を7日間、東京神戸間を列車で2時間半などと予言している。世界文明国の人民は、男女いずれも、必ず1回以上、世界を漫遊する、などという予言もあり
これらは皆、実現している。
科学時術政策の立案にあたっては、研究人材、新たな発見、発明、国際関係などさまざまな観点から政策を考える必要があるが、これから何が実現しそうなのかということを
思い巡らすことも重要な要素である。そこで、1970年前後という経済成長期の我が国において、科学技術に携わる人々の総力を結集して技術予測を行うことが求められるようになった。
これを受け、当時の総理府科学技術庁はデルファイ法による技術予測を行うことを決定し、その第1回の報告書が1971年に公表された。この技術予測は、第5回調査(1992)より、実施機関が
傘下の科学技術政策研究所にかわっているものの、考え方は継続されてきている。
本稿では、これまで40年にわたり行われてきている我が国の技術予測調査の系譜における交通関連技術の位置づけとその内容を概観する。
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デザインから読み解く駅の変遷
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藤井 隆文:一般財団法人鉄道建築協会会長 株式会社ジェイアール東日本建築設計事務所顧問
昨年10月に保存・復原が完成した東京駅丸の内駅舎には今も多くのお客様が訪れ、駅舎見学ツアーは即日満員の大人気であった。また世界的建築家である妹島和世氏デザイン
監修による日立駅がグットデザイン賞に選定されるなど、建築物としての駅舎に対する社会の関心は高いものがある。1872年の新橋・横浜間の鉄道開業とともに日本の駅舎の
歴史が始まって以来、約140年。関東大震災や太平洋戦争、国鉄の誕生と分割民営化、高度経済成長など、社会の大きなうねりの中で、駅舎もまた時代と共に変遷を遂げてきた。
2009年、ジェイアール東日本建築設計事務所は会社設立20周年記念として、JR東日本管内の全1700駅(当時)の写真を掲載した書籍「1700の肖像」を発行した。あらためてこの本を
眺めていると、明治から平成まで、それぞれの時代背景が駅の姿を通して垣間見えてくる。
駅の計画に求められている本来あるべき機能の一つに、実用性と芸術性とを併せ持つ建築デザインというものがある。今回、建築という立場で長年駅に関わってきた経験をもとに
、主に同書籍に掲載されているJR東日本の駅を対象として、「デザイン」という俯瞰的な視点で駅の変遷を読み解いてみたい。
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「Suica]の現状と今後の展望 |
田浦 芳孝:東日本旅客鉄道株式会社 常務取締役
2013年3月23日、日本の交通の歴史において記念すべき特別の日を迎えた。10の交通系ICカードによる「全国相互利用サービス」が実現したのである。
2001年11月18日に、わが国初のIC乗車券システムとしてSuicaが産声を上げて11年4か月が経過していた。
サービス開始から12年目を迎えているSuicaは、この間、IC乗車券としての利用エリアを段階的に拡大し、他の交通事業者との相互利用サービスも順次実現
するとともに、普通列車グリーン車や新幹線定期券にも導入が図られた。また、「ビュー・スイカ」カードやモバイルSuica、Suica付学生証・社員証などの様々な
新しいサービスを矢継ぎ早に展開してきた。さらに、2004年3月からサービスを開始したSuica電子マネーは、今日では利用可能な店舗数で約23万店舗、利用件数
は1日最高400万件を超えるなど、飛躍的な成長を遂げてきた。
このように、今やSuicaは多くのお客様が日々利用される、この国の不可欠な社会インフラと言っても過言ではない。JR東日本では、「グループ経営構想X」に
おいて、「社会インフラとしてのSuicaの利便性向上」というテーマを掲げ、「IC乗車券としての利便性向上」「電子マネー事業のさらなる成長」「新たなビジネス展開」
という3項目を今後の課題に設定した。これらのテーマを着実に実行することにより、JR東日本のSuica事業を、期待されてきた「経営の第3の柱」としての使命を担いうる
地位へと確立してまいりたい。
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東海道新幹線土木構造物の大規模改修工事 |
関 雅樹:東海旅客鉄道株式会社 取締役専務執行役員 新幹線鉄道事業本部長 工学博士
開業50年目に入った東海道新幹線の土木構造物は、入念な検査・補修の積み重ねにより十分な健全性を維持し続けている。しかしながら、将来のいずれかの
時点において、経年劣化による大幅な設備の更新が必要になる。JR東海では、変状の発生を抑止する「予防保全」として有効で、工事実施時に列車運行に支障を与えず、
工事費の大幅な縮減も実現できる新工法の研究開発に、長年にわたって取り組んできた。その成果を活用して、今年度から東海道新幹線の大規模改修に着手
することとしたので、その概要と各構造物に対する工事内容を紹介する。
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北海道観光の現状と課題 |
北山 憲武:社団法人北海道観光振興機構専務理事
ここ最近の、新聞記事を見ますと、北海道観光が極めて好調であるという記事が多く掲載されています。これは北海道内の地域での格差は多少ありますが、北海道全体の観光客入込人数は
、私の個人的な感覚ですと、ここ10年間では最高の水準になっていると思われます。更に宿泊単価についても施設個々の格差はありますが、平均では一人当たり2000円前後のアップになっている
と思われます。
この北海道の観光業界にとって良い環境が続くことを願っておりますが、一方不安な要素も存在します。例えば、一日300t前後の放射線汚染水が、流出されたと言われる「福島第一原発事故」
による影響です。国内でも大きな問題になっておりますが、諸外国でも更に大きな問題として報道されています。これが北海道観光にとって影響が出てしまうことを懸念しております。
次に、近隣諸国との関係です。近年外交問題が表面化している現在、国際関係が悪化することによる観光への影響は少なからず発生すると思います。更にTPPや消費税等、国内経済に影響が
懸念される事案もあります。宿泊業界での懸念事項としては、施設の耐震自己診断の問題もあります。このような懸念事項が存在しているという事を念頭に置かなければなりません。負担が重く
のしかかってくるはずです。
なにはともあれ、北海道内の宿泊業者の皆さんの声を聞きますと、非常に好調との声を聞きます。これは、所謂「アベノミクス」の効果だけではありません。海外は円安やビザの緩和・新規航空路線の
開設やチャーター便の増加、国内的にはLCCの効果や地方路線の拡充等が上げられます。この好調を何としても維持していかなければなりません。これから、北海道に入込が増えた要因と北海道観光の現状
と課題について、説明させていただきます。
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物流から見た青函トンネルの現状・過去・未来 |
早瀬 藤二:日本貨物鉄道株式会社 常務取締役事業開発本部長
青函トンネルは、昭和64年3月に津軽海峡線として開業し、同時に青函連絡船は80年の歴史を閉じた。青函トンネル開通により、本州・北海道間の鉄道輸送は
、直通サービスの提供、到着時分の大幅な短縮等が図られ、輸送量も増加した。
一方、北海道新幹線(新青森〜新函館)は平成17年5月に着工し、平成28年春開業を目指して工事が進められており、青函トンネルは新幹線と貨物列車が共用する
事になっている。この10年来、高速新幹線と貨物列車のすれ違い時の安全対策が検討されてきたが、実現の見通しが得られず、平成23年12月「開業時の新幹線は
暫定的に140km/hとする」との見解が出た。
それでも、新幹線規格の青函トンネルにおいて、新幹線を高速で走らせたいとの要望は強く、時間帯区分方式について「実務検討会」で検討が続けられている。
筆者は、青函トンネルの有効活用という観点では、断面輸送量に着目し、「140km/h暫定開業」もそれなりに評価できると考えているが、まずは、平成28年春に
共用走行をスタートさせ、その実績を積み重ねることが必要であろう。
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ICTを活用した新たなお客様サービスの提案 |
石塚 哲夫 :東日本旅客鉄道株式会社フロンティアサービス研究所長
1960年に日本最大規模のオンライン・リアルタイム・システムとして誕生した「旅客販売統合システム MARS」や2001年のSuica発行以来、142の交通事業者の累計発行枚数8,000万枚
を超えた交通系ICカードシステムに象徴されるように、鉄道は、その時代の先端システム技術をお客さまサービスに積極的に応用してきているが、スマートフォンの普及やインターネットショッピングの
拡大など、近年のICT(Information and Communication Technology)の一般生活への浸透と多様化は、企業のサービスモデルの急速な変革を促しており、鉄道におけるサービスに関しても、斬新な
視点からのサービスへのICTの積極的に取り込みを行い、お客様のニーズを先取りした「新たな価値創造」が求められている。
フロンティアサービス研究は、2001年12月に設立されたJR東日本研究開発センターの中にある研究部門の一つであり、鉄道建設に関する技術開発と革新的なお客さまサービス提案の二つを大きな研究分野
としているが、本稿では、ICTを積極的に取り込んだ「新たなお客さまサービスの提供」に関する取り組みを紹介する。
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交通統計研究所の原点 ―歴史を遡って― |
高坂 盛彦:東京大学法学部卒 1960年日本国有鉄道入社 1987年退職(情報システム部次長)
財団法人交通統計研究所は、1962年4月の発足以来、今日まで半世紀を超す歴史を閲した。本稿は研究所創立以前にも遡って創業者片岡謌郎(1894〜1966)の理想と苦闘
の跡を明らかにすることを第一の目標とする。次いで現在までの略史を主として公益活動の面から概観し、今後の方向についてささやかな提言をもって結ぶ。もとより「社史」で
なく、一歴史研究者の目からみた覚え書に過ぎない。
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[統計講座] 輸送密度から鉄道の本質が見える 「第2回 忙しい複線と暇な複々線 |
大内 雅博 :高知工科大学社会システム工学教室教授
要旨:首都圏各線・各区間の輸送密度と線数との関係を、1線当たりの輸送密度を指標として観察した。輸送密度がその区間の線数を決定するのが合理的であるにもかかわらず、
必ずしも輸送密度が線数決定の支配要因となっていない区間の存在が明らかになった。1線当たりの輸送密度が過大な複線区間と1線当たりの輸送密度が明らかに低い複々線
区間との特徴を対比することにより、用地の確保または投資に必要な資金調達(運賃収入)に改善の余地があることが改めて浮き彫りになった。
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