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交通と統計 2014年4月(通巻35号)



2014年4月11日発行
定価2000円(税込み・送料別)
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組織的安全を考える -高信頼性組織化を目指して -
  
中西 晶なかにし あき:明治大学 経営学部教授

 2013年に発生したJR北海道の一連の事象や相次ぐ首都圏での脱線事故など、最近、交通機関の安全を脅かす問題がしばしば発生している。本稿では、組織として安全を考えるための ひとつの切り口として「高信頼性組織(HRO:High Reliability Organization)」という概念を紹介する。組織的安全を追究するということは、絶えず高信頼性組織化(High Reliability Organization) を目指し続けることに他ならない。ここではまず、1990年代、2000年代に発生した類似の事故・不祥事の事例を振り返り、組織的安全の重要性を確認する。そして、高信頼性組織化の視点から 求められる重要な組織行動、マネジメント、文化について検討していく。最後に、高信頼性組織化を目指していくために重要な「マインドフルネス(mindfulness)」について述べる。
四国の鉄道 ― 国鉄改革から四半世紀 ―
  
泉 雅文いずみ まさふみ:四国旅客鉄道株式会社代表取締役社長

 当社(JR四国)は、国鉄改革により昭和62(1987)年に発足し、27年目を迎えた。
 発足後しばらくは、好景気と瀬戸大橋線開通により順調な経営状況であったが、その後は長引く景気の低迷、低金利の継続、四国内の高速道路網の急速な整備により、平成10(1998)年頃 からは、厳しい経営状況で推移してきた。
 こうした中、平成20(2008)年秋のリーマンショック、平成21(2009)年春から実施された高速道路の休日料金上限1000円政策が追い討ちをかけ、もはや自助努力だけでは、国鉄改革時に 設計されたビジネスモデルの維持が困難な、「鉄道ネットワーク維持の危機、倒産の危機」とも言うべき事態に立ち至った。
 こうした事態を受け、平成23(2011)年、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構における国鉄改革由来の利益余剰金等を活用した当社への経営支援政策が決定する。これを受けて 当社は現在、平成32(2020)年度を当面の目標年度とした経営自立計画を策定、経営努力を行なっているところである。
 しかしながら、支援政策決定時には織り込まれていなかった「本四高速道路の料金値下げ(平成26年4月から実施予定)」という新たな問題が生じてきており、再び、「鉄道ネットワーク維持の危機、倒産の危機」 となりかねない状況である。また、今日の高速交通時代の下、全国各地で新幹線整備が着々と進んでいるが、四国は全国で唯一、いまだに新幹線計画の無い地域である。
 これらのことから、「果たして四国に都市間鉄道ネットワークは必要なのか」という問題に直面している。
 本稿では、国鉄改革から四半世紀を経た今、国鉄が破綻した原因、国鉄改革の目的から改めて振り返ってみることとし、当時とは大きく変容した経営環境も踏まえた当社の現状を見つめ直す とともに、今後、当社が乗り越えていくべき課題などについても述べることとしたい。
京都の観光、京都から見た観光
  
南 隆明みなみ たかあき:京都駅ビル開発(株)相談役 元西日本旅客鉄道株式会社 常務取締役

 日本の観光は、政府が観光立国を目指すとして2012年3月に観光立国推進基本計画を閣議決定し、国の重要な成長戦略の柱に位置付けられたものの、諸外国の それに比べるといろいろの面でまだまだ見劣りする、発展の緒についたばかりのレベルである。
 筆者は、京都駅ビルをベースに経済活動をする傍ら、京都商工会議所の観光産業特別委員長の委嘱を受け、京都観光の方向性を模索し、いくつかの意見書を 起草しとりまとめてきた。
 これらの意見書に基づき、京都府、京都市に対しては、経済界からの政策提言、具体的には商工会議所からの、観光を巡る提言として、行政施策に反映されるよう 要望し、実現に向けて繰り返し説明し、説得活動を展開してきた。この結果、採択され具体化されてきたもの、具体化しつつあるもの等さまざまであり、一様ではない。 しかし、このプロセスの中で、日本の観光を巡る諸問題も明確になってきたと考えられるので、京都観光を入口にして、読者に問題提起をしつつ、ともに考えてみたい。
梅田貨物駅移転と「うめきた」開発の概要
  
大林 祥秦 おおばやし よしひろ:株式会社ジェイアール西日本メンテック 監査役

 JR西日本大阪駅北側の梅田貨物駅の土地(約21ha)は、昭和62年4月の国鉄改革に伴い、旧国鉄の長期債務償還のための財源として、当時の国鉄清算事業団(以下「事業団」とする。 現在、鉄道建設・運輸施設整備支援機構。以下「機構」とする)に帰属した。機構はこの土地を更地化して処分するため、梅田貨物駅の移転に係わる事業を進めてきたが、 平成25年3月のダイヤ改正時に、新設されて吹田貨物ターミナル駅及び改良された百済貨物ターミナル駅への移転を完了することができた。
 また、先行的に土地処分が可能であった梅田貨物駅東側区域(約7ha)については、土地購入者による開発が進められ、平成25年4月に「グランフロント大阪」がオープンした。
 本稿では、長年にわたる懸案であった梅田貨物駅移転事業及び「うめきた」開発の概要を紹介する。
東京モノレールの50年の軌跡
  
長谷川 修はせがわ おさむ:東京モノレール株式会社取締役総務部長

 昭和39年9月17日、東京オリンピック開催に先立つ23日前、東京モノレールは浜松町駅〜羽田駅間13.1Kmの営業を開始した。跨座式モノレール方式による大都市の公共交通機関 として事業化されるのは、日本では初めてのことでもあった。以来、今日まで東京モノレールを利用されたお客様は18億人を超え、空港アクセスとして、また沿線地域の生活路線として大きな役割を担ってきた。
 日本におけるモノレールの導入は、戦前は各地に導入の検討がなされていたものの具体化に至るものは無く、又検討が進められた中においても殆どが遊戯施設に類するものであった。 戦後においては、東京都交通局が上野動物園の来園者に対する園内の移動用として懸垂式モノレール0.3Kmを開業したが、跨座式モノレールとして建設され営業を行ったのは、東京モノレールの 開業に先立つ昭和37年3月に名古屋鉄道が同社犬山線犬山遊園駅〜動物公園駅間1.3Kmを単線で開業し観光用として供したのが初めてであった。同線の開業は、後に跨座式モノレールとして 実用化路線を目指す東京モノレールの開業に大きな貢献がなされたものであった。
 この頃羽田空港では、昭和30年代後半に入ってからの航空機の大型ジェット化や空港施設の拡大強化等による航空事業の発展に伴い、空港を利用する航空旅客や送迎客数は著しい 増加傾向を示していた。このため、空港・都心間を結ぶ道路交通量の増加は甚だしい交通渋滞を引き起こし、空港へのアクセスに都心から1時間以上を要するなど空港利用者等から大きな 苦情等が発せられ、社会から放置し難い問題として受け止められていた。また、IOC総会において昭和39年の第18回夏季オリンピックが東京に決定された中、開催時までに予測される 交通問題を解決することは、オリンピック開催国に与えられた重要な課題とされ、そのような状況の下東京モノレールは開業に至った。
 このような大きな期待を込められて開業した東京モノレールも平成26年を迎え、開業50周年を迎えるに至った。この間、東京の都心部浜松町と羽田空港とを定時制をもって快適に移動できる 空港アクセスとして、また、沿線における利用者等への生活路線として、更には安全で安定した輸送機関として、事業の維持・運営を行ってきた。これまでの道程においては、立ち塞がる 数多くの試練が待ち構えていたが、日本におけるモノレール事業の先覚者としての地道な努力の積み重ねの中で今日に至っている。
 このような、今日までの東京モノレールの軌跡等についてご説明をいたしたい。
東海道新幹線電気設備50年の変遷
  
下前 哲夫しもまえ てつお:日本鉄道電気技術協会顧問
森 厚人もり あつひと:東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 電気部長

 今日、東海道新幹線の運行状態は、1日平均336本、1列車あたりの平均遅れは自然災害によるものを含めて0.6分と世界に類のない安全で安定した状況にある。 その一翼を担う電気設備は開発時から大きく変わった。き電方式と架線方式は方式変更となり、ATCは2周波化を経てデジタル化された。また、途中から導入された コムトラックは9代目になり、空間波方式で始まった列車無線はLCX化され、今はインターネットサービスが行われている。本稿では、開業前の技術開発段階から、 開業を経て現在に至るまでの電気設備の変遷を辿ってみることとする。
[統計講座] 輸送密度から鉄道の本質が見える 「第4回 輸送量が混雑度を決めている―全鉄道会社を対象に」
  
大内 雅博 おおうち まさひろ:高知工科大学社会システム工学教室教授

 要旨:我が国の全鉄道会社における平均輸送密度(1日当たり最高28万人〜最低104人)と1両当たり平均乗客数との関係から、旅客鉄道における輸送力設定の根拠を考察した。 輸送密度が大きくなるほど1両当たりの平均乗客数が多くなった。回帰式から、輸送密度が1日当たり10万人以下では、輸送密度が10倍になると1両当たり平均乗客数が約1.7倍 となった。一方、輸送密度が10万人以上の場合、輸送密度の増加に対する1人当たり平均乗客数の増分はそれ以下の場合の数倍大きくなった。鉄道における、混雑率均一化の 観点からの輸送量に対する輸送力設定の困難さが明らかとなった。
[統計」ASEAN基本統計(2010年度)
   本統計は、ASEAN10カ国と関連国際統計について国際機関 日本アセアンセンターの了解を得て転載して
  おります。(一般財団法人交通統計研究所「交通と統計」編集事務局)
 
故 松永信孝氏を偲んで
  
村山 邦裕 :(株)アドバンストラフィックシステムズ 代表取締役社長

 弊社前会長松永信孝氏は昨年5月にすい臓と肝臓に腫瘍が見つかり、6月から抗がん剤治療をされていましたが、11月中旬に容態が急変し、さる11月24日に帰らぬ人となりました。
 氏は弊社並びにその前身である(株)NTCの発展に尽力されました。また、(一財)交通統計研究所の理事(平成9年〜14年)と評議員(平成15年〜25年)を17年の永きにわたり勤められました。 ここに、本誌をお借りして、松永さんの経歴、功績などを紹介し、そのご遺徳を偲びたいと思います。
 
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