民事裁判は遅いか - 司法統計からみた民事訴訟の審理期間 -
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今井 功:弁護士(TMI総合法律事務所顧問)、元最高裁判所判事
「民事裁判は遅い」といわれることがあるが、司法統計から民事裁判の審理期間を調べてみた。それによると、地方裁判所の民事第1審訴訟の平均審理期間は、短期化の傾向にあり、
平成24年では、約9箇月となっている。その中で、実質的に争いのある事件の平均審理期間は、概ね1年以内であり、その中で、人証調べを実施した事件では、約1年8箇月である。
審理期間が2年を超える事件は、全体の5%である。民事訴訟は、その仕組み自体からある程度の審理期間が必要であるが、時間がかかる原因は、三つある。第1は、民事訴訟の対象である
民事紛争それ自体の問題であり、第2は、民事訴訟の手続きの問題であり、第3は、民事訴訟に携わる関係者の問題である。これらの問題に対しては、それぞれの対策が講じられているが、
国民の法意識や取引慣行等の裁判所や弁護士等の公訴関係人だけでは如何ともしがたい問題もある。今後も裁判官、弁護士等の関係者には、時間がかかる原因を一つ一つ取り除き、民事訴訟の
更なる適正、迅速な解決を図ることが期待される。
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「査読付」わが国における航空機事故の発生・原因・対策に関する統計データ解析
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岩垂 邦秀:政策研究大学院大学 博士課程在学中
大山 達夫:政策研究大学院大学 理事 特別教授
わが国における1975年から2010年にかけての航空機事故データを用いて、航空機型種別経年変化の推移の特徴、事故原因、事故対策について分析、検証する。
さらに航空需要、事故発生件数、事故発生間隔および死者数に関する数理モデル分析を行う。小型、大型を含めた各種航空機事故に関しては事故対策が進み、その発生件数
は過去30余年で大きく減少している。小型航空機、ヘリコプターの事故の原因は、主に操縦者ミスであるが、大型航空機の事故の場合には気象である。また、操縦者ミス
を主要原因とする事故については、経年による事故発生件数の減少は顕著であるものの、気象を原因とする事故発生件数は減少しているとは言えず、気象への対策は
難しいことが分かる。また、小型航空機と大型航空機は、離着陸時の事故発生件数が多く、ヘリコプターは飛行時における事故発生件数が多い。事故発生件数の減少に
ついては、航空機並びに空港や管制レーダーなどの技術革新、パイロットなどの乗務員、整備士並びに管制官の訓練方法の整備と技術の向上、公的ルールの強化および関係企業
による独自の取り組みなど、航空交通に関係しているあらゆる関係者が安全に対する取り組みを行ってきたことによることがわかる。数理モデル分析によって、1991年
までは経済成長と航空需要の伸びと共に航空機の事故発生件数が減少していることを回帰分析を用いて示し、事故発生間隔については指数分布にしたがうこと、そして
事故による死亡者数については負の二項分布にしたがうことを示す。
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「査読付」大都市へのLRT導入の可能性 〜東京都心湾岸部に導入した場合の有用性とその考察〜 |
北村 秀哉:東京電力株式会社 福島復興本社 企画総務部 部長
LRTの大都市の路面公共交通機関としての潜在的な機能に着目し、東京駅、銀座等の都心部と近年人口増加が著しく2020年の五輪開催の舞台となる
東京都心湾岸部を対象として仮想的に導入ルートを設定し、需要予測、事業採算性の試算を行った。その結果、1日8万人以上の利用者が期待でき、事業性は
極めて有望であることが判明した。
本論文では、これらの評価結果とともに、導入にあたっての諸課題を整理し、LRT等の路面中量輸送機関が国際都市「東京」の価値をさらに高める誰もが
利用しやすい交通システムとして、今後十分に検討する価値があることを示したものである。
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東北縦貫線整備と関連駅改良計画 |
中井 雅彦 :東日本旅客鉄道株式会社常務取締役
当社では、宇都宮線・高崎線・常磐線と東海道線の相互直通運転を実施するため、東京駅〜上野駅間に東北縦貫線(愛称:上野東京ライン)の建設を進めている。
東北縦貫線の整備により、当社最大の混雑区間の1つである山手線、京浜東北線上野〜御徒町間の朝の通勤時間帯の混雑緩和や、乗り換えの解消による所要時間の
短縮、首都圏を南北に結ぶ鉄道ネットワークの強化等が期待される。本稿では当社におけるこれまでの輸送改善の取り組みと、東北縦貫線に関わる過去の
経緯についてまず述べる。次に東北縦貫線整備計画の計画概要、ならびに東北縦貫線開業によって想定される旅客の変化に対応するために実施する東京駅・新橋駅・品川駅の
改良計画について述べる。その後、東北縦貫線の施工方法と現在の施工状況について紹介し、東北縦貫線整備に伴い期待される効果について記述する。
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BRTによる仮復旧 ―被災地における地域交通の確保の取り組み― |
中井 雅彦 :東日本旅客鉄道株式会社常務取締役
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、当社の多くの線区で甚大な被害が発生した。特に、太平洋沿岸の路線については津波により線路や橋梁、車両など
が流されるといった深刻な事態に見舞われたが、一刻も早い運転再開を目指し、復旧作業を順次進め、震災直後約400Kmあった不通区間は2014年6月1日現在240Km弱まで
減少している。
しかし、気仙沼線、大船渡線、山田線については、被害が広範囲かつ甚大であり、防潮堤等の整備によるお客様の安全の確保やまちづくりとの整合性など、調整が必要となる
箇所も多く、復旧まで相当の時間を要することが想定された。
そのような中で、早期に安全で利便性の高い輸送サービスを提供して地域の交通を確保し復興に貢献すべく、これらの線区に対し「BRTによる仮復旧」を提案した。その後自治体の
合意を経て気仙沼線、大船渡線の2線においてBRTを運行している。
既に両線の運航開始後1年以上が経過しているが、その速達性やフリークエンシーの高さ等から、地域の足として一定の評価をいただいているところである。本稿では、東日本大震災の
被災地の仮復旧として導入したBRTについて、その導入に至る経緯、整備概要等について述べていくこととしたい。
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JR貨物の過去・現在・未来 |
田村 修二 :日本貨物鉄道株式会社代表取締役社長
JR貨物は会社発足以来28年目が始まったところである。おおよそ一世代の時間が経過したことになる。当初目標として課せられている株式上場は未だ
果たしていないが、それにたどり着くためには絶対越えなければいけない関門、鉄道事業部門の営業損益レベルでの黒字化を当面の課題として、
現在「経営自立計画」の第2段階に当たる「中期経営計画2016」の初年度に入ったばかりである。
本稿では、門外漢の方にも解かりやすいように、パワーポイント資料を使って、様々な角度からこの27年間を振り返り、課題の所在と対策を明らかに
しつつ、将来への展望を述べてみることとしたい。
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着実な成長で日本を元気にしよう |
中島 啓雄 :元参議院議員
2013年度の名目GDPは482兆円(14年1-3月期GDP1次速報)、97年度に521兆円を記録して以来、12年度まで低下傾向が続き20年前(92年度、バブル崩壊時)の水準に戻ってしまいました。
デフレ傾向は20年間継続し、94年度以降13年度までにGDPデフレーターは18%ポイントも低下、雇用者報酬も97年度をピークに16%(就業者1人当たり)減少しました。低成長とデフレにより
→雇用者報酬減→消費減→企業収益減→投資減→低成長、といった悪循環に陥っています。
財政は大赤字、国と地方の債務残高は980兆円(GDPの202%、13年度末見込)となり、政府債務のGDP比、財政収支(赤字)のGDP比はOECD各国の中でほぼ最悪です。政府債務は欧州危機の渦中にある
ギリシャ、イタリア、スペイン等をはるかに上回る水準であり、同様な危機がいつ訪れても不思議ではありません。
12年12月誕生した安倍内閣は金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢により強い経済を取り戻す政策を掲げて円安、株高が進み、13年度の成長率は対前年度名目+1.9%、実質+2.3%、民間消費は+2.7%となってようやく
成長しはじめましたが、14年度予算編成時の見込みには達しておらず、なお一層の努力が必要です。14年4月から消費税増税により税収が増えても、我が国の経済・財政を巡っては課題山積
です。低成長経済から抜け出し、希望のもてる活力ある国への道筋を探ってみたいと思います。
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東海道新幹線建設に従事した時代の記憶 |
廣田 良輔:元日本鉄道建設公団副総裁
東海道新幹線の建設に従事した3年間の体験と、当時見聞した事柄を主としつつ改めて昭和30年代の社会背景と、新幹線誕生のキーマンである十河信二について考える。
筆者は昭和35年4月に土木系職員として国鉄に入社し、1年間の職業教育、実習等を経て昭和36年4月、名古屋幹線工事局に配属されて社会人生活を始めた。
それから新幹線が開業する4カ月前の昭和39年5月,日本鉄道建公団へ転出するまで本局と現場で新幹線の建設工事に従事した。当時のグリーンボーイも現在は77歳の後期高齢者
である。浅学非才を省みず、健康の許す間に3年にわたる新幹線のインフラ建設状況の現場体験や見聞したこと、あわせて背景である当時の技術レベルや政治、経済、社会の状況を
後世に伝えたいと思い立ったのである。
もとより総合的、体系的な知見とは程遠く、地域も中京の一部の状況に限られることをお断りしておかねばならない。建設前後の状況を若干でも知って頂ければ幸いである。
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[統計講座] 輸送密度から鉄道の本質が見える 「第5回 スイス国鉄はなぜ便利なのか」 |
大内 雅博 :高知工科大学社会システム工学教室教授
要旨:列車本数の多さと接続の良さで定評のあるスイス連邦鉄道(SBB)旅客部門の利用度を、日本のJR旅客鉄道会社と比較した。輸送密度に対する列車本数では
SBBはJR北海道や九州在来線と同程度であるが、輸送密度の高い分だけ列車本数が多くなった。スイスの人口密度の割には住民1人当たりのSBBの平均乗車距離が
長いことが分かった。その結果、人口密度の割にはスイス連邦鉄道の利用度が高いことが分かった。
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