「安全研究所の活動とヒューマンファクターの視点」
|
河合 篤:西日本旅客鉄道株式会社安全研究所長
当社は、平成17年の福知山線脱線事故の反省に立って、社内に安全研究所を設置した。
本論では当研究所の活動の概要を紹介するとともに、戦前から今日までの鉄道におけるヒューマンファクター研 究の歩みのレビュー、ヒューマンファクターの観点で興味深い過去の鉄道事故における検討をとおして
研究領域の広がりや方向性を整理し、昨今のこの分野における研究の動向や社会環境の変化も勘案して、これか らの鉄道分野におけるヒューマンファクター研究の視点について考察する。
|
|
|
「嵯峨野観光鉄道の事業について」
|
森 泰蔵:嵯峨野観光鉄道株式会社 前代表取締役社長
当社は日本国内では数少ない観光に特化した鉄道事業者の一つであり、しかも京都嵯峨嵐山という日本有数の観光地で事業展開している極めてユニークな存在の鉄道会社である。
ここでは、その沿革、これまでの取組みと課題、ならびに今後目指している方向性などについて述べることとする。その中で最優先課題として取り組んでいる安全対策について述べるほか、
各地の鉄道会社の多くがモータリゼーションの変化、少子高齢化などの影響もあり長期的にご利用者が減少している中で、観光という視点からみた鉄道事業者の地域における位置づけ及び
役割という視点から当社なりに考え悩みながら取組んできたこと、今後取組もうとしていることに言及していきたいと考えている。
|
|
|
「鉄道における無線技術の変遷(その1)」 |
藤原 功三 :セントラルメディアサービス式会社 アドバイザー 日本鉄道電気技術協会 技術顧問
鉄道はその開業から142年を経て、昨年には東京駅開業100周年、東海道新幹線開業50周年を迎え、さらに磁気浮上式鉄道の建設も開始され、この間国民生活に
不可欠な基幹交通輸送機関としての役割を果たしてきた。
鉄道開業時に運転保安用としての裸通信線3条からはじまった鉄道通信はその後の通信技術と戦後の電子技術、そして近年のデジタル技術・情報処理技術の発展の
中で鉄道運営、安全確保、旅客サービス向上に大きく寄与してきたところである。
日本で最初のオンライン・リアルタイムシステムであるマルスシステム(みどりの窓口)の全国ネットワーク、新幹線運転用重要回線構成、鉄道電話の全国自動化等
の実現を可能にしたのは国鉄マイクロウェーブ回線(SHF)であり、そして今日では円滑な列車運行に不可欠な情報連絡・指令用の各種列車無線、更に近年では無線に
よる列車運行制御システムの実用化も始まっている。鉄道の近代化に大きな役割を果たしてきたこれらの無線技術の今日に至る変遷と、これらを俯瞰して今後の課題
を2回にわたり記述する。
|
|
|
[統計講座] 輸送密度から鉄道の本質が見える
「第9回 東海道新幹線はどの程度成功だったのか」 |
大内 雅博 :高知工科大学社会システム工学教室教授
要旨:東海道新幹線の開業以来の乗客数の増加が、高速による所要時間の短縮のみならず、日本の高度経済成長期と重なっていたことによるものであることを、
同期間における東京から同距離帯の東北本線や他線の輸送密度推移との比較から示した。東海道新幹線開業前の1960年度を基準として、国鉄輸送量がピークとなる
1975年度までの15年間で、東海道新幹線と在来線の普通(=定期外)旅客輸送密度は東京と大阪の国電区間外で約2.8倍に増加した一方、後年新幹線が開業する東北本線
では同期間に2.2倍に増加した。この差が、在来線を含めた東海道新幹線による純粋な輸送量増加効果に相当すると見なした。東海道新幹線の開業による輸送量増加
には、それ自体の速達効果によるものに加えて、高度経済成長期であったことによる分も含まれていたと言える。一方、東北・上越新幹線の大宮開業および上野開業を
挟む1960年度から1986年度までの新幹線在来線合計の普通旅客輸送密度は、東海道で2.6倍、東北が2.3倍程度の増加と、東海道と東北との差が縮小したとはいえ差が残ったことを確認した。
|
|
|