[査読付] 「我が国の鉄道事故の発生状況と列車運行に与える影響分析」
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山口 剛志:公益財団法人鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道管理 研究員
三和 雅史:公益財団法人鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道管理 研究室長
大山 達雄:政策研究大学院大学 理事
我が国の鉄道は重要な社会インフラとして、長年にわたって輸送量の大きさと定時制を保持してきている。近年では、北陸新幹線の延伸や上野東京ラインの開業等があり、現在も日本の鉄道ネットワークは
常に変化しているのに加え、海外に向けて日本の鉄道を輸出する動きも活発である。また、日本における定時制の高さは、東海道新幹線の運行1列車あたりの年間平均遅延時間が0.9分(自然災害等による遅延も含む)
であることから確認できる。しかしながら、運行中の列車や鉄道設備等に事故や障害が生じると、その定時制は失われてしまう。よって、鉄道事故が列車運行に与える影響について分析を行い、適切な対策を講じることは
鉄道ネットワークの信頼性の向上につながると考える。
本稿では事故が列車運行に対する影響を詳細に分析することにより、鉄道事故が利用者に与える影響について把握するとともに、鉄道事故がもたらす損失を検討する。本稿の主眼は、我が国における鉄道事故や輸送障害が
列車運行に与える影響をマクロに概観し、その時系列的特徴、地域特性、事業形態特性等を把握することである。
本稿の第2章では日本における鉄道輸送の推移について述べ、第3章では鉄道事故発生の推移について分析を行う。第4章では鉄道事故が列車運行に与える影響について事故発生の時刻や曜日に着目して分析を行う。
第5章では鉄道事故の地域間での特徴の違いを示し、第6章にまとめと考察を述べる。
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「新宿駅改良工事のこれまでと今後」
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北郷 篤:東日本旅客鉄道株式会社建設工事部次長
新宿駅は、JR線、小田急電鉄線、京王電鉄線、都営地下鉄新宿線・大江戸線、東京地下鉄丸の内線が乗り入れており、1日約340万人のお客様のご利用がある世界最大級のターミナル駅である。
特に、JR新宿駅は、山手線、中央線(快速、緩行、特急)、埼京線、湘南新宿ラインなどの線区が乗り入れ、約2400本の列車が発着し、1日に約150万人のお客様のご利用をいただくJR東日本でも最大規模の駅である。
新宿駅の歴史は古く、1885(明治8)年の開設に始まり、新宿駅周辺の発展に伴う利用者の増加に対し、数々の駅改良を重ねてきた。本稿では、新宿駅の歴史に触れるとともに駅改良工事のこれまでの経過と現状、今後について述べる。
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「駅から始まる街づくり」 |
近藤 隆士:JR西日本不動産開発株式会社代表取締役社長
多くの街では、駅はその街の玄関口であり、そこから面的に拡がっていきます。駅と街は補完し合うものであり、そういうところに人々は自然に集まってくるものと思います。
この完成度を高めていくには、駅や駅周辺に生活に便利なさまざまな機能を配置していくことで駅や周辺のポテンシャルを高め、鉄道を利用するお客さまや、その街に住むお客さまの
生活が豊かになり、結果として街の価値が向上するという方向に持っていくことが大切だと思います。英語でTOD(Transit Oriented Development)という表現もあるようです。私たちは
こういう考え方を「駅から始まる街づくり」と称しています。
また、街づくりは完成までに時間がかかります。ですから、しっかりとした構想を持ち、社会の変化や将来的なニーズを見据え、持続可能性にも配慮し誠実に一つひとつの開発を行い、
こつこつと「駅から始まる街づくり」を推進していくことで、鉄道の発展およびそれぞれの街の活性化に貢献していけるものと考えています。
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[鉄道施設探訪記] 「第1回 関門トンネルの竪抗を訪ねる」
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小野田 滋:公益財団法人鉄道総合技術研究所情報管理部担当部長
今回から、駅舎や橋梁、トンネルなど、鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介してみたい。今や、東京駅が国の重要文化財に指定される時代なので、近代化の象徴であった鉄道も、ようやく文化財として認められる存在となったといえる。
東京駅のように規模も大きく、誰が見ても「立派」で、しかも大御所である辰野金吾先生の大作であれば、国の重要文化財に指定されても万人が認めるところである。筆者も、これまで「東京鉄道遺産」(講談社・2013)や「関西鉄道遺産」(講談社・2014)を
出版し、文化財級の著名な鉄道施設を一般向けに紹介してきた。しかし、多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介してみたい。
ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。
第1回は関門トンネル工事で使われた工事関連施設について述べてみたい。
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「三陸鉄道 復旧・復興の取組み」 |
望月 正彦 :三陸鉄道株式会社代表取締役社長
東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸鉄道。震災から5日後に一部区間で運行を開始し、3月中に全線延長の三分の一に当たる36.2Kmで運行を再開した。
2011年11月には国の支援が決まり、震災から3年での全線運行再開をめざし、本格復旧工事に着手した。
独立行政法人鉄道・運輸機構の全面協力を得て工事は順調に進み、2014年4月に全線運行再開を果たすことが出来た。
全線運行再開後全国から多くの観光客を迎え、復興は順調のように見える。しかし前途は決して容易でない。沿線地域の人口減少や震災からの復興の遅れが
懸念されている。それでも三陸鉄道は地域の生活の足として、また全国から多くのお客様をお迎えして地域の活性化に貢献するため、様々な経営努力をしながら地域の
復興とともに歩みを進めている。
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「鉄道における無線技術の変遷(その2)」 |
藤原 功三 :セントラルメディアサービス式会社 アドバイザー 日本鉄道電気技術協会 技術顧問
鉄道はその開業から142年を経て、昨年には東京駅開業100周年、東海道新幹線開業50周年を迎え、さらに磁気浮上式鉄道の建設も開始され、この間国民生活に
不可欠な基幹交通輸送機関としての役割を果たしてきた。
鉄道開業時に運転保安用としての裸通信線3条からはじまった鉄道通信はその後の通信技術と戦後の電子技術、そして近年のデジタル技術・情報処理技術の発展の
中で鉄道運営、安全確保、旅客サービス向上に大きく寄与してきたところである。
日本で最初のオンライン・リアルタイムシステムであるマルスシステム(みどりの窓口)の全国ネットワーク、新幹線運転用重要回線構成、鉄道電話の全国自動化
等の実現を可能にしたのは国鉄マイクロウェーブ回線(SHF)であり、そして今日では円滑な列車運行に不可欠な情報連絡・指令用の各種列車無線、更に近年では無線
による列車運行制御システムの実用化も始まっている。鉄道の近代化に大きな役割を果たしてきたこれらの無線技術の今日に至る変遷と、これらを俯瞰して今後の課題を2回にわたり記述する。
今回は、移動体無線の変遷、その他の無線系の変遷、周波数利用と電波監理、今後の鉄道における無線利用と課題等について述べる。
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[統計講座] 輸送密度から鉄道の本質が見える
「第10回(最終回) 新幹線が東京志向を促したのか」 |
大内 雅博 :高知工科大学社会システム工学教室教授
要旨:新幹線による東京志向の高まりを定量化して、その推移を考察した。国鉄時代に新幹線が開業した東海道本線、東北本線、高崎・上信越線の3線区について、
開業による各停車駅(在来線時代から優等列車が停車する主要駅であったものに限る)の乗降客(当該駅が乗車券の起点または終点となる、新幹線と在来線の合計の乗降客)
の推移を、1960年度から86年度までについて下りと上りを別に求めた。1980年頃までは、新幹線開業の有無にかかわらず、3線区とも線区全体として、下り方面乗降客に対する
上り方面乗降客の比(以下、「乗降客数の上下比」)が徐々に上昇していった。さらに、東北本線および高崎・上信越線については1982年の新幹線開業または1985年の新幹線
上野乗入れにより、乗降客の上下比が上昇した。1960年度に乗降客数の上下比が最も低かった東海道線では、その後の値の上昇も比較的穏やかだった。1960年度に乗降客数の
上下比が比較的高かった東北線や高崎・上信越線は、常に東海道線よりも高い増加率を維持し続け、新幹線の開業によりその差は一層開いた。東北・上越新幹線がその沿線の
東京志向を特に加速したと言える。東京志向の程度を決めるのは、新幹線の開業よりはむしろ、東京と逆方向の拠点となる都市の集積の低さであると言える。
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