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交通と統計 2020年1月(通巻58号)



2020年1月31日発行
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Suicaの現状と今後の展望
  
大川 潤一郎おおかわ じゅんいちろう:東日本旅客鉄道株式 IT・Suica事業本部次長

 IC乗車券として2001年11月から首都圏でサービスを開始したSuicaは今日、IC乗車券、電子マネーを中心に生活の様々なシーンで幅広く使われており、媒体もカードタイプからクレジットカード一体型、モバイルなど幅広い ラインナップを用意している。
 Suicaには「IC乗車券」「電子マネー」「認証」の機能があり、これを通じて、当社グループだけでなく全国の各交通事業者、さらに交通事業者という枠を超えて、当社グループ外の多様な業種、業態の企業との連携を通じて サービスの提供範囲を広げている。
 IC乗車券では、2001年11月のサービス開始以降、当社管内における利用可能エリアを順次拡大するとともに、2007年3月のPASMOとの相互利用開始により、ICカード一枚で首都圏エリア内のほとんどの鉄道・バスが乗車可能となった。 これにより首都圏における利便性が飛躍的に向上した。さらに、全国でも順次交通系ICカードとの相互利用を進め、2013年3月にはSuicaを含む全国10の交通系ICカードとの全国相互利用サービスを開始した。この他にも、2016年3月には 仙台市交通局発行のicscaとの仙台圏に限定した相互利用を開始するなど、他の交通事業者にも利用範囲を広げている。最近では、2017年に中央線のSuica利用エリアが拡大したほか、今後は常磐線、鹿島線のエリア拡大を予定している。
 電子マネーサービスは、Suicaの魅力向上や駅ナカでの利便性向上を目指して、2004年3月よりサービスを開始し、その後駅ナカ及び街ナカのさらなる加盟店拡大や各種キャンペーン等を通じた利用促進を図ってきた。また、鉄道と同様に 電子マネーについても、2007年3月のPASMOとの相互利用を皮切りに、順次各交通系ICカードとの加盟店の相互開放を進め、2013年3月にはポストペイのPiTaPaを除き、電子マネーにおいても全国相互利用を実現した。
 認証機能としては、ビル入退館管理での活用や、コインロッカーの鍵やシュアサイクルの鍵としてもご利用いただけるなど順次サービスを拡大している。この認証サービスは他の2つの機能と比較すると広がりはまだ限定的であるが、電子チケット やホテルのルームキーなど、想定される活用方法は多岐に渡る。当社としてはIC乗車券機能、電子マネー機能と同様に認証機能をさらに成長させ、Suicaをご利用いただける領域拡大を目指している。
 本稿においてはSuicaのサービス開始から今日にいたるあゆみや現状、さらにJR東日本グループがこれから「Suicaの共通基盤化」に向かってどのようにSuicaを成長させていくのかを述べていく。
羽田空港アクセス線構想 
  
今井 政人いまい まさひと:東日本旅客鉄道株式会社 執行役員 建設工事部長
片岡 賢司かたおか けんじ:東日本旅客鉄道株式会社 建設工事部 次長

 羽田空港は2018年末時点で国内48都市と海外18ケ国・地域の30都市に就航しており、年間約8,500万人以上が利用する我が国を代表する主要国際空港の一つです。東京都心から のアクセス利便性が良いという立地条件に加え、これまで、再国際化や24時間運用化、空港容量拡大、アクセス改善など、空港の機能強化に資する多くの施策が行われ、この10年 間で航空機の発着回数や利用者数は大きく増加しています。また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を見据え、新たな飛行ルートの運用開始により発着枠の さらなる拡大が予定されているほか、今後の訪日外国人旅行者数の目標達成や首都東京の国際競争力強化、地方創生等の観点からも、その重要性はより一層高まるものと考えられます。
 このような羽田空港を取り巻く環境が大きく変化する中、当社は、2018年7月に策定したグループ経営ビジョン「変革2027」において「シームレスな移動の実現」を掲げ、都心から北関東 までを含む広範なエリアから羽田空港へのダイレクトアクセスを実現する「羽田空港アクセス線構想」を推進しています。
 本稿では、「羽田空港アクセス線構想」の計画概要やこれまでの経緯、環境影響評価手続きの概要・進捗状況について報告します。
JR西日本における地震・津波対策の取り組み 
  
松田 好史 まつだ よしふみ大鉄工業(株)顧問、西日本旅客鉄道(株)技術顧問、(前)西日本旅客鉄道(株)常務技術理事構造技術室長

 2013(平成25)年12月、いわゆる国土強靭化基本方が成立した。国土強靭化の推進に当たってのハード面での重要な課題として、社会資本の戦略的な維持管理・更新(インフラ長寿命化)と防災・減災の推進の2つが挙げられている。 とりわけ、防災・減災の推進においては、激甚化する自然災害への対策と地震・津波対策の推進が大きな課題となっている。
 1995(平成7)年1月に発生した兵庫県南部地震は、気象庁の震度階級に震度7が導入されてから初めて震度7が記録された地震で、激しい揺れの影響を受けて25万棟の住家が全半壊し多くの尊い人命や財産が失われた。2011(平成25)年3月に発生した 東北地方太平洋沖地震は、国内観測史上最大規模の巨大地震で、これに伴う大津波の来襲により東北地方から関東地方にかけて甚大な被害が発生し、死者と行方不明者の総数が18,000人を超えるなど、戦後最悪の自然災害となった。2016(平成28)年4月に 発生した熊本地震では、気象庁の震度階級が制定されてから震度7が初めて2回観測された。また2018(平成30)年9月に発生した北海道胆振東部地震では、北海道で初めて震度7が観測され、地震発生直後に北海道のほぼ全域が停電となるブラックアウトが発生する 非常事態となったことは記憶に新しい。国を挙げて東日本大震災からの復興に取り組む中、その一方で、首都直下地震や南海トラフ地震の近い将来の発生が確実視されるなど、地震・津波対策の着実な推進が急務となっている。
 西日本旅客鉄道(株)(以下、JR西日本という)は、1995(平成7)年1月に発生した兵庫県南部地震以降の地震対策に加えて東北地方太平洋沖地震以降の津波対策にも、ソフト・ハード両面から取り組んできている。これらの取り組みは、山陽新幹線のインフラ長寿命化 に関する様々な実証的な取り組みや激甚化する自然災害に備えるための防災・減災の推進に関する取り組みと併せて、まさに鉄道強靭化を推進するための重要な柱をなすものである。
 本論文は、兵庫県南部地震発生から25年が経過する節目を迎えるに際し、JR西日本が取り組んでいる鉄道強靭化の推進における諸施策のうち、地震・津波対策のソフト・ハード両面にわたる取り組みについて報告するものである。
「おおさか東線」全線開業のあゆみ  
  
川井 正 かわい ただし:西日本旅客鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 近畿統括本部長
高見 豊 たかみ ゆたか:西日本旅客鉄道株式会社 近畿統括本部 地域共生室長

 おおさか東線は、東海道本線新大阪駅〜片町線放出(はなてん)駅〜関西本線久宝寺駅を結ぶ路線です。この路線は、新大阪駅〜JR淡路駅間を新線で建設され、これまで 貨物専用線として使用していた城東貨物線【片町線支線(JR淡路〜久宝寺間)】を複線・電化し、客貨併用線として整備されました。南区間の放出〜久宝寺間は2008年(平成20年)3月15日に、北区間 の新大阪〜放出間は2019年(平成31年)3月16日に開業し、全線開業となりました。
 本稿は、おおさか東線の事業概要や全線開業までのあゆみを記します。
「ななつ星in九州」のこれまでの歩み
  
小川 聡子おがわ さとこ:九州旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部クルーズトレイン本部次長

 日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は2013年10月15日に運行を開始しました。いまや日本の新しい鉄道の旅のスタイルとして定着したクルーズトレイン。
 本稿ではJR九州(以下、「当社」という)が「ななつ星in九州」をどのような思いで構想し作り上げてきたのか、運行開始までのプロセスをご紹介するとともに、その魅力やこの6年間における取り組みについて 触れ、最後に今後の展望について述べたいと思います。
日立の鉄道ビジネスのグローバル展開 -英国市場への参入-
  
鈴木 學すずき がく:株式会社ヤシマキザイ特別顧問

 日立の鉄道ビジネスは2000年当時、受注・売上とも海外比率は1%程度で、事業の生き残りのためには、この海外比率をいかに上げていくかが課題でありました。
 そのためには、まずマーケテイングが基本ということで、1999年に英国へ、2000年に中国(北京)と台湾(台北)へ、ベテランの駐在員を派遣し活動を開始しました。中国では 運よく2001年に北京地下鉄13号線車両電機品の受注、2002年に重慶モノレールシステムの受注が決まり、2003年には合弁会社も設立し生産の現地化と順調に立ち上がっていきました。 台湾でも2003年に振子型特急電車「太魯閣(タロコ)号」の受注と、海外受注が積みあがってきました。
 一方、英国の壁は依然として厚く、市場参入への苦闘を重ねていました。その経緯を、1999年から2019年までの間の挫折と成功等を本稿で述べます。
[鉄道施設探訪記]  第18回 山生やもめ橋梁と柴田直光
  
小野田 滋:公益財団法人鉄道総合技術研究所情報管理部担当部長

 鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介するシリーズである。多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介している。ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、 むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。                  

 鉄道分野における鉄筋コンクリート構造物の始まりは、1907(明治40)年に完成した山陰本線米子〜安来間の島田川暗渠で、径間わずか6フィート(1.83m)ほどの小規模なアーチ橋であった。鉄筋コンクリートは、それまでの煉瓦や石積みよりも強度特性(特に耐震性)に優れた構造として土木分野と建築分野でそれぞれ進化を遂げたが、当時の鉄筋コンクリート技術は海外でも設計・施工法が 充分に確立されていなかったため、しばらくは試行錯誤の時代が続いた。
 そうした中で、1924(大正13)年に完成した内房線江見〜太海(ふとみ)間の山生(やもめ)橋梁(千葉県鴨川市天面)は、こうした試作期の鉄筋コンクリート構造物として、従来は鋼製プレートガーターの領域であった支間30フィート(約9m)のクラスの桁橋を実現し、鉄筋コンクリート橋梁の可能性を一挙に拡大した。今回は、山生橋梁とその設計を担当した鉄道省大臣官房研究所設計室(のち第四科)技手 の柴田直光について紹介してみたい。
[速 報] 鉄道統計(平成30年度) JR・関連機関 
  
  鉄道に関する基本数値(社別の線区数、駅数、運輸成績、社員数、損益計算書、貸借対照表等)を各種資料から集約した統計資料です。
JR各社だけでなく、大手民鉄、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の情報も一部掲載しています。
   
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