[査読論文] 韓国軽電鉄の現状と課題
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森田 哲夫:前橋工科大学社会環境工学科 教授
朴 正郁:元韓国交通研究院KOTI
尹 祥福:東義大学校都市工学科 教授
杉田 浩:一般財団法人計量計画研究所 特任研究員
塚田 伸也:前橋市都市計画課 課長補佐
韓国の大都市では戦前から路面電車が敷設されており、バスと共に都市内の主要な移動手段であった。戦後、モータリゼーションの進展により路面電車は廃止され、地下鉄整備が進められている。
しかし、地下鉄は建設費用が高いことから、需要が比較的少ない地域を中心に建設費用が安い軽電鉄(軽量電鉄)の検討が始まり、2011年から軽電鉄の整備が始まった。韓国の軽電鉄は専用走行空間を有し、多くは日本でいう新交通システムに相当する。
日本における韓国の都市交通に関する研究は、朴らの研究、酒井の研究のようにソウル市の都市交通特性に着目した研究がある。公共交通政策に関しては、釜山広域市を対象とした天野らの研究、ソウル特別市の公共交通体系改編に関するベ・ギモックの講演報告がある。
鉄道に関しては、ソウル特別市の鉄道政策を対象とした澤の研究、上下分離運営に着目した黄・黒崎の研究があり、地下鉄政策について都市鉄道のPPP事業に着目した奥田の報告がある。バスの交通政策については、準公営事業政策に関する天野らの報告や朴の報告、ソウル特別市
のバスによるトランジェットモール整備に関する宋らの研究がみられる。このように、韓国の公共交通特性、公共交通政策に関する研究は存在するが、軽電鉄に関する研究はみられない。また、澤の研究、奥田の報告、天野らの報告、朴の報告のように、近年、韓国の
交通政策や制度に注目が集まっている。本研究においては、これまでの研究報告がみられない韓国軽電鉄の現状とそれを踏まえた課題について、政策や制度面に着目しながら検討することとする。
2019年8月の韓国における現地調査と研究会、その後の遠隔研究会の成果にも基づき、韓国軽電鉄の現状、課題について議論した。本報告は日本であまり知られていない韓国の軽電鉄の現状について紹介し、日本への知見を得ることを主な目的とするものである。議論の中で
日本の新交通システムと同じように「想定した運賃収入が得られず採算性上問題となる路線が多いといったこと」、韓国特有なものとして「BTO方式などによる民間資本の活用」、「地下鉄、バスも含めた公共交通機関統合料金制度」、「高齢者の運賃無料施策」など、今後、 日本においてLRTを含む公共交通システムのあり方を考える上での参考になる点もみだされている。
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新型コロナ禍の影響を踏まえた列車制御からの提案
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中村 英夫:日本大学 名誉教授
新型コロナ禍による鉄道事業の影響に対し、技術面からのサポートを考える。最初のメニューは、無線式列車制御システム(CBTC)化による現場設備削減と運営コスト低減である。しかし、そのためには既存CBTCの一層のスリム化や性能向上が不可欠である。本稿ではその要望に応え得る統合型列車制御システム(UTCS)を提案する。UTCSの下では、踏切と転てつ機と車両が現場に残り、論理はセンターに集約される。一例が、CTCの機能をもつATP閉そくである。さらに、CBTCに敷居の高さを感じる事業者用に、軌道回路によるソリューション、すなわちケーブルを無くして多現示の信号現示制御を可能とするほか、デジタルATC相当の制御も実現する、孤立波起動回路をメニューとして提案する。
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LRTによる持続可能なまちづくり-オランダと日本の経験を踏まえて
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ロブ・ファン・デア・バイル:ゲント大学工学建築学部客員教授
宇都宮 浄人:関西大学経済学部教授
ニールス・ファン・オールト:デルフト工科大学土木地質工学部助教
質の高い都市交通機関として、LRT(Light Rail Transit)の可能性は数えきれない。
本稿はLRTの特性に関する問を提示したうえで、LRTプロジェクトの論議を包括的に検討し、どのような形のプロジェクトが実現するかを検証する。具体的には、オランダと日本のそれぞれ3つのLRTの事例を踏まえ、「何を」「なぜ」「どのようにして」という疑問で解き明かすものである。
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米国の貨物鉄道輸送の変遷
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黒崎 文雄:東洋大学国際観光学部教授
米国の鉄道輸送は民間資本の手により発展を遂げたが、1960年代は高速道路網の発展により旅客輸送部門が巨額な赤字を計上するようになり、その内部補助のために黒字の貨物輸送部門の営業利益の半分を費やす状況となっていた。
また、鉄道経営に対する厳しい規制はかえって経営の合理化を遅らせる要因となっていた。当時の鉄道輸送産業はこのような問題のため存続自体が危機的とも言える状況であったが、1970年に設立されたアムトラックに赤字の旅客輸送事業が移管され、
1980年に制定されたスタガーズ鉄道法により経営の規制緩和が進められると、米国の鉄道会社は長距離重量輸送を中心とする鉄道事業の特性が発揮できる部門に経営資源を集中させるようになった。規制緩和による経営合理化の効果もあり、主要鉄道会社の
生産性は大きく向上し経営も黒字に転換した。また、鉄道貨物の輸送量は大きく増加し、国内貨物輸送の大きなシェアを有するように変革されて現在に至っている。このような米国の鉄道経営の変革は、世界の鉄道界の歴史の中でも、鉄道経営が劇的に改善された特筆すべき事例と位置づけられている。
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国際ゲートウェイ・国土軸を繋ぐ「うめきた(大阪)地下駅」の開業に向けて
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日名田 高志:西日本旅客鉄道株式会社 執行役員 建設工事部長
杉崎 幸弘:西日本旅客鉄道株式会社 建設工事部(輸送改善) 主席
藤川 陽平:西日本旅客鉄道株式会社 大阪工事事務所 うめきた工事所 係長
JR西日本の大阪駅周辺は、「梅田」と呼ばれ、駅の北側に広がる「うめきた地区」では、現在、JR東海道線支線の地下化及びそれに伴い「うめきた(大阪)地下駅」の建設が進められている。
以下に、本稿では、「うめきた地区」における一大都市再開発計画の契機となった梅田貨物駅の移転までの歴史、そしてこの地区における「うめきたプロジェクト」の開発計画の一環
としての「うめきた(大阪)地下駅」の建設、加えて、さらに発展、拡張していく大阪駅とその周辺の開発等について、ご紹介することとしたい。
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[近代日本の技術の礎を築いた人々] 第3回 諸芸学士としての工学教育の元祖 - 古市公威
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大山 達雄:政策研究大学院 名誉教授
諸芸学は、社会の中で指導的役割を果たすべき人々が身に付けておくべき知識として算術、幾何、歴史、文学といった広範囲な学問分野、そして技術をも習得するための学問である。昨今、わが国においても文理融合、学際的
横断的な教育研究の重要性、必要性が叫ばれていることを考えるとき、古市は今から150年以上も前の明治維新当時に、そのことを認識していたと言えるのではなかろうか。
古市の工学教育思想は、諸芸学に出発点をおいていることから、「工学はひとつ。工業家たるもの全般の知識を持たなければならない」という信念に基づいていた。
ここにあるのは、各専門がクロスオーバに知識を持つことで、広範囲な工学の知識体系を会得することがうたわれている。古市は姫路藩の江戸屋敷で生まれ、開成学校、大学南校そしてフランス留学という当時の最高と言うべき
エリート教育を受け、技術官僚としてのキャリアでスタートした後、大学教育、中でも工学教育に人生を捧げたとも言うべき古市公威の性格は公平無私、そして慎重かつ几帳面であったと言われている。彼の経歴、業績から見てもこのことは十分
うかがわれることであるが、学究肌の古市にとっては政治的な駆け引き、取り引きとは無縁で、実業界とも適度な距離を保ちつつ、ひたすら日本のため、公共のため、社会のため、そして若い人材養成のために尽力し、人生を捧げたと言えるであろう。
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[鉄道施設探訪記] 第23回 阪神甲子園球場と阪神電気鉄道(上)
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小野田 滋:公益財団法人鉄道総合技術研究所情報管理部担当部長
鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介するシリーズである。多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介している。ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、
むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。
阪神タイガースの本拠地として、また全国高校野球大会で知られる阪神甲子園球場は、阪神電気鉄道(以下「阪神電鉄」)によって1924(大正13)年に完成した。1905(明治38)年に大阪(出入橋)〜神戸(三宮)間を全通させた阪神電鉄は、軌道法に基づいて設立されたが、アメリカの大都市近郊で発達したインターアーバン(都市間高速電気鉄道)をモデルとしていた。
しかし、路面電車を前提としていた軌道法の制約でインターアーバンを実現することは難しく、また競合路線の進出などもあって、その経営基盤は必ずしも盤石ではなかった。
このため、施設の改良や電気供給事業、不動産開発へ進出するなどの企業努力が重ねられ、阪神間を結ぶ高速電気鉄道の先駆者としての地位を築いた。甲子園球場とその周辺の開発は、こうした挑戦する阪神電鉄の象徴とも言うべき事業であった。甲子園球場は高校野球やプロ野球など野球の聖地としての印象が強いが、今回は「聖地」に至る経緯に焦点をあてて紹介してみたい。
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