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交通と統計 2021年10月(通巻65号)



2021年10月29日発行
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ヨーロッパにおけるTEE2.0構想
  
青木 眞美あおき まみ:同志社大学商学部 名誉教授

 2021年8月に開催された東京オリンピック・パラリンピックにおいて大会の目標の一つとして、国連開発計画のSDGS(持続可能な開発目標)が紹介されている。 SDGSは、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できることを目指す普遍的な行動の呼びかけであり、貧困や経済的不平等の解消、差別の解消、気候変動への対策、持続可能な消費、平和と正義 などについて優先課題として盛り込んでいる。現在の社会における選択を見直すことで、将来の世代の暮らしを持続可能なものにすることをめざしており、幅広い局面や世代での実践が求められている。
 交通手段については、自動車への過度の依存の見直し、公共交通網の充実と利用促進などが気候変動への対策の一環として、また経済的不平等解消の一環として検討されている。 長距離移動についても、国際会議への参加のために大西洋をヨットで横断したグレタ・トウーンベリさんに代表されるよな、飛行機の利用は環境に多大な負担をかけるので避けるべきだ、という考え方が ヨーロッパの若者の間で広がっており、ヨーロッパ内での鉄道旅客輸送は増加傾向にあるという。
こうした流れを受け、2020年9月にかってのTEE(Trans-Europ Express、汎欧州特急)やその夜行版TEEN(Trans-Europ Express Night)を巡る新構想が発表されている。
 本稿ではTEEの歴史を振り替えとともに、現在議論されている新たなTEE構想(TEE2.0といわれている)について紹介する。
JR西日本の交通系ICカードICOCA(イコカ)の歩み
  
甲斐 康弘かい やすひろ:西日本旅客鉄道株式会社デジタルソリューション本部IT部長 
小山 靖司こやま やすし:西日本旅客鉄道株式会社デジタルソリューション本部IT部担当課長
戸川 昌紀とがわ まさき:西日本旅客鉄道株式会社デジタルソリューション本部IT部主査

 ICOCA(イコカ)は、国内の主要な交通系ICカードとしては東日本旅客鉄道(株)(以下「JR東日本」)が発行する「Suica」に次いで、2003年11月に近畿圏エリアの254駅でサービスを開始、今年11月にはサービス開始から18年を迎えます。この間ICOCAのご利用可能エリアは2007年9月の岡山・広島エリアへの拡大から、山陰エリア(2016年12月)、 石川・富山エリア(2017年4月)へと順次エリアを拡大し、特急停車駅でのご利用を可能とする対応、ワンマン線区への車載型IC改札機の導入など、ご利用可能エリアの拡大を続けています。
 また、相互利用を始めとした他交通事業者との連携を積極的に進めており、ICOCAというインフラを有効に活用し、鉄道の利便性向上や利用促進に資する施策を推進しています。 最近では2021年3月に東海旅客鉄道(株)(以下「JR東海」)のTOICAエリアと当社ICOCAエリアを跨ぐ区間の在来線定期券をTOICA、ICOCAで発売しIC定期券による跨り利用も可能とするなど、益々ご利用しやすいICOCAを目指しています。
 加えて、ICOCAは電子マネーとしての機能(ここでの電子マネー機能は物販店、飲食店等における決済)をJR西日本管内にとどまらず、全国的に利用できるように発展しています。
 以下に、交通系ICカードICOCAのこれまでの発展の歩みを述べます。
鉄道事業における新型コロナウイルスの影響
  
平田 一彦ひらた かずひこ:株式会社東武カードビジネス 監査役

 2020年2月頃より日本全体に広まった新型コロナウイルス感染拡大は、交通分野においても大きな影響をもたらしている。最も影響を受けているのは、航空事業における 国際旅客輸送部門であるが、鉄道事業においても、通勤、通学、ビジネス、買い物、観光等、様々な分野でかってない旅客需要の減少が見られ、グループ展開を図る鉄道企業集団においても、運輸事業のみならず、レジャー事業、流通事業などが大きな影響を被っている。
 本稿では、主要鉄道会社、鉄道企業集団の2020年度及び2021年度第一四半期の決算数値、開示データを中心に、そのほか住民基本台帳等の公的諸統計やモバイルデータ等の統計資料を加えて、鉄道事業・鉄道企業集団への影響を俯瞰することとしたい。
関西国際空港と大阪都心と新幹線新大阪駅を直結する鉄道新線 --なにわ筋線--
  
平松 祐之ひらまつ まさゆき:関西高速鉄道株式会社 常務取締役 
青木 淳あおき じゅん:西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部企画統括部担当部長

 なにわ筋線は、JR西日本が2023(令和5)年春開業に向け現在整備中の新駅「うめきた(大阪)地下駅」(以後「うめきた(大阪)」等と記載する)と、JR大和路線(関西線:加茂〜JR難波間)のターミナルであるJR難波駅、及び南海電鉄南海本線の新今宮駅を 結ぶ新たな地下鉄道として2031(令和13)年春の共用開始を目指して整備事業が進行中である。 新型コロナウイルス(COVID-19)感染症が世界中に拡大した2020年の直前までは、大阪を訪れる外国人観光客数は7年間で6倍に急増(2012(平成24)年203万人→2019(平成31)年1,231万人)しており、関西圏の競争力強化 と経済成長索引の大きな源泉となっていた。また、東海道・山陽新幹線にリニア中央新幹線と北陸新幹線が将来加わりスーパーメガリージョンたる国土軸の西の拠点としてのポテンシャルが期待される「新大阪」、"最後の一等地"と称された旧国鉄梅田貨物駅跡地を国際競争力の高い知的創造都市として開発中の「うめきた」、未来医療国際拠点を核とした都市再生の議論が進む「中之島」において、都市再生特別措置法に基づくまちづくりと官民連携した 大規模都市開発の機運が盛り上がっている。この状況を追い風に、これらの開発拠点と関西国際空港を直結するなにわ筋線は2019(平成31)年に新規事業化された。
 本稿では、大阪都市圏における鉄道ネットワークの現状と課題、「なにわ筋線」の位置づけや目的、事業化までの検討経緯、事業の概要など、現時点までの歩みを紹介するとともに、開業により期待される効果などの将来展望についても述べることとしたい。
鉄道における雪害対応の実態〜えちぜん鉄道と地域の協力による「ネットワーク障害型災害」への備え〜
  
伊東 尋志いとう ひろし:元えちぜん鉄道株式会社 専務取締役

 雪による災害の特徴は、差し迫った生命の危険は小さいが、交通をはじめとする都市機能、ネットワークを阻害し、多くの人々の生活を阻害することにある。 典型的な車社会の地方都市において、えちぜん鉄道が経験した雪害からは、鉄道の社会性、とりわけ道路交通との補完関係が顕在化した。この補完関係の意識を 行政、社会が持つことで、災害からの復旧がスムーズに行われ、鉄道の社会的役割についての理解が深まることにもつながった。これは地震などのより深刻な災害時の 鉄道と社会の関係、インフラ復旧のありかたにも示唆を与えてくれる。
 
[近代日本の技術の礎を築いた人々]  第4回 "港湾工学の父"と呼ばれた実務家で教育者 - 廣井 勇
  
大山 達雄おおやま たつお:政策研究大学院 名誉教授

 廣井勇の性は「廣井」が正しいが、本稿では読みやすさ等を考慮して「広井」と表記することをお許しいただきたい。広井は江戸末期の1862(文久2)年に土佐(現在の高知県)で生まれ 同郷同期に牧野富太郎という秀才がいて、安政南海地震の被害が残る中、土木工学の重要性に気づき、札幌農学校に進学し、ウイリアム・クラーク博士、内村鑑三、新渡戸稲造ら当時の わが国エリートを代表する人々との交流を持ったことがその後の人生に大きく影響したことは事実である。特に札幌農学校に進学したことは、彼のその後の人生にとって決定的であったといえる気がする。 本連載で前回紹介した古市公威が同じ土木工学者として輝かしい経歴の下に大きな功績を残す中で、より広く諸芸学(Polytechnique)という学問を身につけたことによって、技術官僚でありながら広い視野 から土木工学、工学教育に携わり業績を上げたのに対して、広井は土木工学、特に港湾工学、そして橋梁工学といった基盤の下で、彼が札幌農学校で経験し、身につけた国際性、人間性、人生観に基づいて 、東京帝国大学教授として学生の教育に当たり、多くの国際性、人間性豊かな土木技術者の逸材を世の中に送った功績は、その後のわが国の土木工学の発展を支えたというだけでなく、計り知れない貢献であると言えるだろう。
[鉄道施設探訪記]  第24回 阪神甲子園球場と阪神電気鉄道(下)
  
小野田 滋:公益財団法人鉄道総合技術研究所 アドバイザー 

 鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介するシリーズである。多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介している。ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、 むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。                  

 阪神タイガースの本拠地として、また全国高校野球大会で知られる阪神甲子園球場は、阪神電気鉄道(以下「阪神電鉄」)によって1924(大正13)年に完成した。1905(明治38)年に大阪(出入橋)〜神戸(三宮)間を全通させた阪神電鉄は、軌道法に基づいて設立されたが、アメリカの大都市近郊で発達したインターアーバン(都市間高速電気鉄道)をモデルとしていた。 しかし、路面電車を前提としていた軌道法の制約でインターアーバンを実現することは難しく、また競合路線の進出などもあって、その経営基盤は必ずしも盤石ではなかった。
 このため、施設の改良や電気供給事業、不動産開発へ進出するなどの企業努力が重ねられ、阪神間を結ぶ高速電気鉄道の先駆者としての地位を築いた。甲子園球場とその周辺の開発は、こうした挑戦する阪神電鉄の象徴とも言うべき事業であった。
 前回は野球の聖地に至る経緯に焦点をあてて紹介したが、今回はその後の甲子園球場とその周辺について述べてみたい。
 
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