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交通と統計 2022年1月(通巻66号)



2022年1月28日発行
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水素をエネルギー源とした燃料電池車両の開発
  
長谷川 均はせがわ ひとし:公益財団法人鉄道総合技術研究所 総務部次長 工学博士

 水素をエネルギー源とした燃料電池車両(以下、燃料電池車という)開発の背景には、産業革命以降の化石エネルギー消費に依存した、エネルギー枯渇や地球温暖化問題がある。 元来、鉄道は他の輸送機関に比べて輸送量当たりの消費エネルギーが少ないシステムである。一度に大量の人や物を運べると同時に、車両の走行抵抗が他の輸送機関に比べて格段に小さいと言った特徴があるためである。一方で、最近の自動車や 飛行機の燃費向上、脱炭素に向けた取り組みとその効果は、目覚ましいものがあり、鉄道の優位性が相対的に下がってきているのも現状である。このような社会情勢の中、鉄道においてもこれまで以上に省エネルギー性の向上やエミツション(排出物)の 削減が求められている。
 本稿では、昨今のエネルギー問題や地球温暖化問題について記述し、その環境下において今まで開発された省エネルギー車両について解説した後、公益財団法人鉄道総合技術研究所が行った、水素をエネルギー源とする燃料電池電車の開発の経緯や試験車両の詳細について説明する。
新宿南口地区の熱供給事業について
  
小林 千佳こばやし ちか:新宿南エネルギ―サービス株式会社取締役社長

 熱供給事業は、地域冷暖房(略称:地冷)とも呼ばれており、冷房・暖房・給湯等に必要となる冷水・温水・蒸気を一箇所または数箇所で製造して複数の 建物に供給する事業のことである。我が国では、1970年代より大気汚染対策等の観点から熱供給事業の導入が始まり、その後都市開発の促進やエネルギー効率化といった要素も含めつつ普及していった。
 新宿南口地区においても、1990年代より国鉄改革を契機とした基盤整備において熱供給事業が導入され、今日に至っている。
 本稿では、熱供給事業の概要や変遷、今後の課題等について、新宿南口地区における導入例を踏まえつつご紹介する。
[近代日本の技術の礎を築いた人々]  第5回 近代土木工学の礎を築いた情熱と苦闘の土木技術者 - 田邉朔郎
  
大山 達雄おおやま たつお:政策研究大学院 名誉教授

 田邉朔郎(以下では読みやすくするため田辺と記す)が活躍したのは明治初期で、田辺朔郎の名前は琵琶湖疎水や日本初の水力発電所の建設、関門海底トンネルの提言 を行うなど、日本の近代土木工学の礎を築いた土木技術者、そして工学者としてよく知られている。田辺は北海道官設鉄道施設部長として北海道の幹線鉄道開発に着手し、狩勝峠の 名づけを行うなど、実務家として能力を発揮しつつ、明治期という混乱期にわが国の発展に大きく貢献した人物である。
 本稿では、田辺が育った時代に注目しつつ、彼の果した役割と貢献を眺めてみることにする。
[鉄道施設探訪記]  第25回 亀の瀬地すべりと関西本線(上)
  
小野田 滋:公益財団法人鉄道総合技術研究所 アドバイザー 

 鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介するシリーズである。多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介している。ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、 むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。                  

 谷崎潤一郎の『鷸鶉隴雑纂』じゅんいつろうざつさん(日本評論社・1936)という随筆集には、代表作の『陰影礼賛』ともに『旅のいろいろ』と題した随筆が収録されている。『旅のいろいろ』では関西本線の汽車に乗って大和路へ行くことが桃の花の咲くころの楽しみとして紹介されるが、そこに「先年地辷じすべりのあった何とかと云う村のトンネルを通り、柏原、王寺、法隆寺、大和小泉、郡山等 の小駅を経て奈良へ行く汽車に乗ってみ給え。」という一文が登場する。この「先年地辷りにあった」とされるのは、1931(昭和6)年末に発生した亀の瀬地すべりのことで「奈良に行く汽車」は関西本線のことである。 関西本線王寺〜柏原間の大和川右岸に位置する亀の瀬地すべりは、同年11月に滑動を開始したため、その直下に位置していた関西本線の亀の瀬トンネルが変形し、翌1月に下り線が、同年2月には上り線が相次いで不通となり、徒歩連絡が行われた。今回から2回にわたり、この亀の瀬地すべりを取り上げ、当時の人々がこの災害にどのように対応したかを振替ってみたい。
[書 評] 『北海道の鉄道開拓者-鉄道技師・大村卓一の功績』/高津俊司 著
  
大山 達雄おおやま たつお:政策研究大学院 名誉教授

 本書は、北海道の鉄道開拓者として幕末から明治期にかけて活躍した鉄道技師である大村卓一の功績を当時の時代背景、そして大村自身の人生体験とともに 詳細に紹介、記述した著書である。徳川末期から明治初期にかけてのわが国の動きに関心を持っている筆者にとっては、まさに興味ある良書であった。
  本書の表紙をめくると、まず大村卓一をめぐる人間関係ということで、幕末から明治初期にかけて彼が活躍した時代の、彼の人間関係を図示した関連図が目に入る。 だれもが驚くのは、彼が付き合った、あるいは彼に影響を及ぼした人々が鉄道関係者だけに限らず、幕末の藩主、文化人としての学者、そして明治期のわが国の発展 に寄与した政治家など、実に広範囲で当時の実業界、学界、政界とすべてを網羅し、しかも各界のトップの重要な人物がすべて含まれていることである。 現在のわれわれにもなじみの深い、いわゆる当時の著名人がこれだけ並ぶと、これまで知らなかった大村卓一なる人物に興味を持たざるを得なくなるというのが筆者の実感であった。
 本書は第一部:北海道開拓鉄道の沿革、第二部:大村の朝鮮総督府、満鉄時代、第三部:大村の生い立ち、からなる三部構成である。第一部では困難と苦闘に満ちた北海道開拓鉄道の歴史、 第二部では大村の朝鮮総督府、満鉄時代の大陸進出と活躍、第三部では大村の生い立ちから晩年、そして日本の敗戦と終戦が記されている。
[速 報] 鉄道統計(令和2年度)JR・関連機関  
  
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