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交通と統計 2023年10月(通巻73号)


2023年10月31日発行
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日本の鉄道遺産 鉄道博物館と鉄道文化遺産活動の発展小史
  
菅 建彦すが たつひこ:公益財団法人交通協力会顧問、元交通博物館館長 

 鉄道遺産という観点から見ると、日本に半世紀先だって開業した欧米諸国、中でも鉄道の発祥の地である英国には、創業期の土木構造物や建築物が多数残っていて、 今なお現役で使われているものも少なくない。また、実用に耐える寿命が短い車両のようなものでも、欧米諸国においては創業期のものがよく保存されている。
 これに対し日本では、創業期の構造物や建物が今も使われている例はほとんどなく、車両などの保存も、残念ながら欧米諸国の水準には達していない。この背景には、多発する自然災害や戦禍によって破壊された鉄道施設や車両が多かったことに加え、急速な経済成長に伴う需要の急拡大に対応するためやむを得ない事情もあった。
 このような制約を受けながらも、日本の鉄道遺産を保存して次代に伝えようとする努力が、古くから続けられてきた。本稿では、鉄道遺産の保存に努めてきた先人の歩みを振り返りながら、現在の状況と今後の課題を概観することにしたい。
コムトラック(東海道・山陽新幹線運行管理システム)の半世紀を超える歩み -日本国有鉄道時代編-
  
山本 博やまもと ひろし:東海旅客鉄道 新幹線鉄道事業本部 電気部 担当課長
恵後原 健えごはら けん:西日本旅客鉄道 鉄道本部電気部 信号通信課(システム) 担当課長

  JR東海とJR西日本が共同で管理、運営しているコムトラック(COMTRAC:Computer Aided Traffic Control System)は、日本国有鉄道(以降、国鉄という)時代の1972(昭和47)年3月 15日の新幹線(東京・新大阪間)の岡山延伸時に初めて導入され、運用を開始しました。 その後、1975(昭和50)年3月10日の博多延伸以降、半世紀の時を超えて機能向上を図り、日本の大動脈を支える東海道・山陽新幹線の高速高密度の列車運行に資するものになっています。
 今回、その半世紀を超えるコムトラックの歩みのうち、国鉄時代における開発の経緯を東海道新幹線開業時の1964(昭和39)年10月1日における新幹線運行管理方式を含め紹介いたします。
北海道新幹線札幌開業に伴う函館本線の運営形態についての一考察 
  
黒崎 文雄くろさき ふみお:東洋大学国際観光学部教授 

 2030年度末、北海道新幹線が札幌に延伸されると、函館本線(函館・小樽間)は平行在来線としてJR北海道の経営から分離される。しかし、これまでに分離されて平行在来線とは異なり、新函館北斗・長万部間は鉄道によらない旅客交通の体系を想定しておくことも必要として議論が行われている。この場合、旅客輸送のための第三セクターを設立して運営するという従来の 並行在来線の経営形態を適用することはできず、当該区間の運営には新たな形態を導入することが必要となる。
 北海道と本州を結ぶ函館本線は貨物輸送の大動脈であり、その貨物輸送の便益は北海道のみにとどまらず広く全国におよんでいる。このため、受益者負担の観点からも線路施設の 保守費用の一部を政府が負担することは合理的と考えられる。
 また、貨物列車が運行する当該路線は高規格の鉄道路線であり、その施設を管理するためには鉄道施設に関する高い技術力が必要である。このため、鉄道施設分野の技術者を有する 鉄道・運輸機構が当該路線を北海道とともに保有し、同組織の技術力を活かしながら施設保守工事を発注する形態には検討の余地があるものと考えられる。
 現在、並行在来線の線路施設は、鉄道・運輸機構が交付する貨物調整金が大きな原資となって施設保守が行われている。しかし、現行の調整金制度については2030年度までに新制度に移行する旨の申し合わせが存在し、移行後の施設保守の 財源は未定となっている。検討線路の保有形態やその管理形態とあわせて、抜本的な議論が求められている。
日東交通における組織形態の変遷 -分社化と再統合の視点から-
  
松崎 朱芳まつざき  あけよし:千葉商科大学商経学部准教授 

  日本のバス事業者における経営改善の手法の一つとして分社化が挙げられる。1980年代以降全国のバス事業者において分社化がみられるようになった中、近年ではその動向も変化し、再度、事業者を統合する事例もある。既往研究では費用削減を中心とするリストラクチャリングを目的に分社化が行われたとされているが、その成果と再統合に至った経緯について、その実態は十分に明らかになっていない。
 本稿では千葉県日東交通におけるインタビュー調査に基づいて、分社化から再統合に至った経緯について明らかにする。日東交通の分社化は費用削減を目的に行われたものと判断できる。加えて、補助受給を通した路線の存続を可能にした。ただし、日東交通の分社化後、子会社においても親会社と同様に多岐にわたる事業経営を行う自律的な経営がみられた。
 しかしながら、経営環境の悪化に伴い親会社・子会社間の事業重複の非効率化が顕著になったために再統合に至った。親会社・子会社が現業・事務部門における役割分担を明確にすることで費用面での経済性を享受しながら、効率的な経営を行うことが望ましいといえよう。
[鉄道施設深訪記] 第32回 関東大震災と馬入川橋梁   
  
小野田 滋:公益財団法人鉄道総合技術研究所 アドバイザー 

 鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介するシリーズである。多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介している。ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、 むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。                  

 今回は関東大震災100年に因んで東海道本線の茅ヶ崎・平塚間に流れる馬入川(相模川)にかかる橋梁の被害と、その復旧状況、現地に今も残る爪痕などについて紹介してみたい。
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