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統計に見る我が国の貨物鉄道
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神立 哲男 : 公益社団法人鉄道貨物協会 前理事長
我が国は昨年度、「物流における労働力不足」がクローズアップされ、「物流の2024年問題」として大きく取り上げられた。それを受け政府においては「物流革新元年」として、「物流革新に向けた政策パッケージ」が示され、「物流効率化法の改正」など様々な対策が立てられつつある。それらの対策の一環として貨物鉄道や船舶による「モーダルシフト」の促進が有効な手段とされている。また、地球温暖化による気候変動や海面上昇も大きな問題であり、その一因とされている二酸化炭素(CO2)の排出の削減も急務となっている。これに対しても貨物鉄道は輸送トンキロ当たりのCO2排出量が営業用トラックの約11分の1であり、環境負荷の低減に役立つ輸送機関としてその役割発揮が期待されている。 しかしながら、政府発表の2022年度国内輸送における貨物鉄道輸送の分担率は、トン数ベースで0.9%、トンキロ数ベースで4.4%となっており、自動車、内航海運と比べた場合のシェアの低さから貨物鉄道に対しての評価が定まらない状況になっている。 本稿においては、少子高齢化の現状、輸送機関別国内貨物輸送量と地域間輸送、ロジステックス面から見た貨物輸送の役割、青函トンネルにおける貨物鉄道の役割、地球環境問題に対する貨物鉄道の役割とエコレールマークなどを統計やデータに基づき考察を行い、ロジステックス、輸送コスト、地球環境問題などから貨物鉄道の優れた点を明らかにし、我が国において今後も貨物鉄道輸送が必要であることを論じた。また、その応援団としての公益社団法人鉄道貨物協会の役割と主張を紹介する。
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交通の経営戦略
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高橋 伸夫:東京理科大学 経営学部 教授
経営戦略論の教科書や講義では、どうしても製造業を念頭にした説明が多くなってしまうので、そもそも交通は経営戦略論とは無縁だと感じている人もいるかもしれない。しかし、実は経営学の文献には、鉄道を例として取り上げたものも多い。そこで本稿では、鉄道を中心に交通の事例をあげながら、交通の経営戦略を考える。経営戦略論で一時代を画したポジショニング学派、企業戦略と競争戦略の違いから始めて、まずは誰とどこで戦うかを決める企業戦略に関して、多角化とシナジー効果、製品志向から顧客志向へと進み、輸送ビジネスの顧客志向の事例を取り上げる。トラック業者が始めたコンテナ船、さらに船会社が始めた鉄道のコンテナ2段積み列車、そして顧客志向の日本の船会社が、コンテナ船だけでなく、海外鉄道も航空貨物も手掛けてきた事例を紹介する。ここで重要なことは、顧客志向で展開した新事業には、既存顧客の需要を深耕することから生じるシナジー効果があるということなのである。さらに、どうやって戦うのかの競争戦略に関しては、市場での独占のレントを追求するものと、企業のユニークさに起因するリカードのレントを追求するものがあることも紹介する。本稿では、シンプルに、重要成功要因を発掘して競争戦略に磨き上げ、顧客志向で立てた企業戦略に沿って、ありたい姿への道筋として経営戦略を描くアプローチを推奨したい。
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交通インフラのサイバーセキュリティ
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後藤 厚宏:情報セキュリティ大学院大学 教授
鉄道などの交通インフラは、安全確保を第一としたうえで、サービスを安定供給することが求められる。幅広い関連サービスを含め、汎用ICT、IoT、クラウド、さらにはAIを活用したサービスの利便性・業務の効率性の向上を進めるためには、サイバーセキュリティの確保が必須である。そのためには、広域・大規模に展開されている設備の運用システムから業務の運用システムに至るまでの総合的リスク分析に基づき、交通インフラの必須機能を担うコア設備を改めて点検する必要がある。次に長寿命設備のソフトウェアを確実に保守点検する体制作り、およびサプライチェーンリスクを視野に入れた取り組みが必要である。
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フランス国内の旅客鉄道輸送市場開放の動向
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荻原 隆子:一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員
EU指令(鉄道第4パッケージ指令)に基づき、長らくフランス国鉄(SNCF)グループによる独占運行が行われていたフランス国内の旅客鉄道輸送市場においても、高速鉄道(Trains a Grande Vitesse:TGV)ではオープンアクセス(参入自由化)、都市間鉄道(Trains d Equilibre du Territoire:TET)・地域圏鉄道(Train Express Regional:TER)においては競争入札を採用した市場開放が進められている。 高速鉄道市場ではイタリアの鉄道事業者のTrenitaliaやスペインの鉄道事業者であるRenfeが参入を果たし、複数の新規鉄道事業者が従来のSNCFが提供してこなかった新たなルートでの参入を狙っている。一方、都市間鉄道や地域圏鉄道では新規鉄道事業者による参入申請や入札は行われるものの、参入申請条件の厳しさや既存事業者の強みを生かしたSNCFによる長期契約の再締結により、落札する新規鉄道事業者は限られており、SNCFによる寡占状態が続いている。 市場開放の導入・進捗状況を踏まえ、フランス国内の鉄道旅客輸送市場の発展につなげるための課題として、@SNCFありきの発想から抜け出し、公平な制度・スキームの構築を実現すること、A輸送サービスの権限者である国や地域圏は、輸送事業者に選ばれる運行路線を維持する努力が必要であること、が挙げられる。
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